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管理会計の始め方——財務会計との違いと最初の4ステップ

「毎月、税理士から試算表はもらっています。ただ、それを見て何かを決めたことはないですね」——管理会計のご相談は、だいたいこの状態から始まります。

試算表を見ていても経営判断ができないのは、経営者の読解力の問題ではありません。試算表は財務会計の書式であって、そもそも経営判断のために作られていないからです。「CFOの役割とは」の記事で挙げた役割①「経営の可視化」の中核である管理会計について、今回は「何から始めるか」を具体的に解説します。

管理会計とは——財務会計との違い

管理会計(Management Accounting)は、経営者が判断するための社内向けの会計です。決算書や試算表を作る財務会計とは、目的も作り方も違います。

財務会計(決算書・試算表) 誰のため 税務署・金融機関・株主 ルール 会計基準・税法で決まっている 単位 全社×勘定科目 時間軸 過去の実績の記録 管理会計(経営のための会計) 誰のため 経営者・マネジメント自身 ルール 自社で自由に設計してよい 単位 部門別・事業別・商品別など 時間軸 未来の判断のための材料

図1:財務会計と管理会計の違い——同じ会計データでも目的が違う

ポイントは「ルールが自由」だということです。財務会計のように正解の書式はなく、自社の判断に必要な形に、自社で設計してよい。裏を返せば、設計しなければ何も始まらない——これが、試算表を眺めているだけでは経営判断につながらない理由です。

経営に効く「3つの分解」

では、どう設計するか。中小企業の管理会計は、突き詰めると試算表の数字を3つの軸で分解し直すことから始まります。

全社の損益(試算表) ① 部門・事業別に分ける どこで儲かっていて どこで損しているか ② 変動費と固定費に分ける 売上がいくらあれば 利益が出るか(損益分岐点) ③ 月次推移で見る 単月の良し悪しではなく 傾向がどちらを向いているか 最初に効くのは①——多くの会社で「事業別の損益」が初めて見える瞬間になる

図2:試算表の数字を経営に使える形にする3つの分解

3つのうち、最初に取り組む価値が最も高いのは①の部門・事業別です。全社では黒字でも、分解すると「A事業の利益をB事業が食っている」構造が珍しくありません。この構造が見えて初めて、価格・撤退・投資の議論が具体的になります。②の変動費・固定費の分解(損益分岐点)と③の月次推移は、①の表に列と行を足す形で後から拡張できます。

なお、管理会計を含む経営管理の現在地は、経営管理体制チェックリスト(約3分・無料)で確認できます。

管理会計を始める4ステップ

STEP 1 目的を1つ決める 何の判断に使うか STEP 2 区分を決める まずは2〜5区分 STEP 3 配賦ルールを簡素に 売上比・人数比で十分 STEP 4 月次運用に載せる 会計ソフトの部門タグ

図3:管理会計を始める4ステップ

STEP 1:目的を1つ決める

「管理会計を導入する」を目的にすると失敗します。「事業別にどこで儲かっているかを見て、来期の力の入れ方を決めたい」——このように、何の判断に使うかを1つに絞ります。目的が決まれば、必要な分解の軸(図2のどれか)は自然に決まります。

STEP 2:区分を決める

部門・事業の区分は、最初は2〜5区分で十分です。組織図どおりに細かく分けたくなりますが、区分が増えるほど後述の配賦と入力の手間が増え、運用が止まりやすくなります。「その区分ごとに違う判断をするか」が区分を分ける基準です。違う判断をしないなら、分ける意味はありません。

STEP 3:共通費の配賦ルールを「簡素に」決める

家賃や管理部門の人件費など、どの事業にも直接紐づかない共通費をどう扱うか。ここが管理会計の最初の関門ですが、結論はシンプルで、売上比か人数比で機械的に割る、または無理に割らない——このどちらかで十分です。詳しくは次の「つまずき」で述べます。

STEP 4:会計ソフトの部門タグで月次運用に載せる

区分と配賦が決まったら、日々の仕訳に部門タグを付ける運用を経理と合意します。多くの会計ソフトには部門別集計の機能があり、仕訳時にタグさえ付いていれば、部門別損益は自動で出るようになります。エクセルで毎月組み替えるのではなく、データの入口で分類する——これが継続の鍵です。月次で回し始めたら、「はじめての予実管理」の記事で書いた月次サイクルにそのまま載せられます。

よくある2つのつまずき

つまずき①:配賦の精緻化で止まる

本社費をどの事業にいくら負担させるか——この議論は白熱しがちで、そして生産的ではありません。配賦を精緻にしても事業の実力は1円も変わらないからです。むしろ配賦前の貢献利益(事業に直接紐づく売上と費用だけで見た利益)までで判断するほうが、事業の実力は正確に見えます。配賦は「ざっくり参考値」と割り切ってください。

つまずき②:財務会計と数字が合わず、信頼を失う

部門別に組み替えた合計が試算表と一致しない、集計のたびに数字が変わる——こうなると、せっかくの管理会計が「参考程度の数字」として扱われ始めます。対策は2つ。合計が財務会計と一致することを毎月確認すること(調整表を1枚挟む)、そして指標の定義を明文化することです。定義の揃え方は「KPI設計の進め方」の記事で書いた定義書の考え方がそのまま使えます。

✔ ポイント

管理会計は「精緻な原価計算」から始める必要はありません。まず事業別の損益がざっくり見えるだけで、経営の議論は目に見えて変わります。完璧な設計を待つより、2〜3区分の粗い部門別損益を来月から出し始めること——はじめての予実管理の記事から繰り返している「精緻さより継続」の原則は、管理会計でも同じです。

まとめ

  1. 管理会計は経営者自身のための会計。ルールは自由で、自社で設計しなければ始まらない
  2. 設計の基本は3つの分解——部門・事業別、変動費・固定費、月次推移。最初に効くのは事業別
  3. 始め方は4ステップ——目的を1つ、区分は2〜5個、配賦は簡素に、会計ソフトの部門タグで月次運用へ
  4. 配賦の精緻化に踏み込まず、貢献利益までで判断する。財務会計との一致確認だけは毎月行う

管理会計を含む経営管理の現在地は、経営管理体制チェックリスト(約3分・無料)で確認いただけます。また、当社のコムレイド経営企画部では、部門別損益の設計から会計ソフトの運用整備、月次レポートの型づくりまでを、CFO・経営企画のプロが伴走して仕組み化します。経営管理 無料診断(60分・オンライン)では、貴社の事業構成に合わせた管理会計の区分設計の考え方もその場でご提案していますので、お気軽にご相談ください。


執筆:コムレイドコンサルティング合同会社 代表社員 千葉 学(CFO・FP&A支援)

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