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はじめての予実管理——「予算が作って終わり」にならない月次の型

前回の記事「経営企画部の立ち上げで最初につまずく5つのこと」で、つまずきの2つ目として「予算が作って終わりになる」問題を取り上げました。実は、私がご支援の現場で最も相談が多いのが、この予実管理です。

「予算はある。会計ソフトで実績も出る。それなのに、予実管理が回らない」——この状態には、共通する原因と、共通する処方箋があります。本記事では、初めて予実管理を仕組み化する企業に向けて、私が現場で使っている「月次の型」をご紹介します。

予実管理は「過去の採点」ではなく「未来の意思決定」のため

最初に、目的をはっきりさせておきます。予実管理とは、予算と実績を比較し、差異の要因を把握し、次の打ち手につなげる仕組みのことです。

ここで大事なのは、予実管理の目的は「過去の採点」ではないということです。目的を採点に置くと、予実会議は「なぜ未達なのか」を問い詰める場になり、現場は言い訳の準備に時間を使うようになります。そうではなく、目的は年度の着地見込みの精度を上げ、一日でも早く手を打つこと。この目的の置き方ひとつで、同じ予実管理でも機能の仕方がまったく変わります。

始める前に決める3つのこと

予実の表を作り始める前に、決めておくべきことが3つあります。

1. 粒度——「実績が取れる単位」に合わせる

「経営企画部の立ち上げで最初につまずく5つのこと」の記事でも触れたとおり、予算の粒度が実績の粒度と合っていないと、突き合わせが手作業になり、予実管理は止まります。予算は「実績データが毎月自動的に出てくる単位」で組むのが原則です。事業部別の実績が会計から取れないなら、初年度は全社×勘定科目レベルの粗い予実からで構いません。粗くても毎月回るほうが、精緻で止まっているより価値があります。予算そのものをこれから作る場合は、「年度予算の作り方」もご参照ください。

2. スケジュール——「締め後◯営業日」を固定する

予実レポートは「できたら出す」ではなく、「締め後◯営業日に出す」と期日を固定します。精度とスピードはトレードオフですが、予実管理においてはスピードを優先すべきです。月半ばに完璧な資料が出てくるより、月初に速報値が出てくるほうが、打ち手は早くなります。

月次締め (月末) 締め後3営業日 実績の速報値を確定 締め後5営業日 予実レポート提出 経営会議 論点を議論し打ち手を決定

図1:月次スケジュールの例(期日はあくまで一例。自社で決めて固定することが重要)

3. 役割——「数字のオーナー」と「取りまとめ役」を分ける

各数字には、その数字に責任を持つオーナー(通常は各部門の責任者)がいて、経営企画はそれを取りまとめて全社の絵にする役割です。経営企画が全部門の数字の説明責任まで背負い込むと、①現場が数字を「自分ごと」にしなくなり、②経営企画が疲弊します。「数字の説明は各部門、フォーマットと締切とりまとめは経営企画」という分担を最初に決めておきます。

月次で回す5つのステップ

準備ができたら、毎月同じ型で回します。私がご支援先で使っているのは、次の5ステップです。

STEP 1 実績を確定する STEP 2 差異を把握する STEP 3 要因を分解する STEP 4 着地見込みを 更新する STEP 5 打ち手を 論点化する 翌月も同じ型で繰り返す

図2:月次で回す予実管理の5ステップ

STEP 1:実績を確定する

会計の締めを待ちすぎないことがポイントです。最終確定値でなくても、経営判断に使える精度の速報値であれば十分です。「正確だが遅い数字」より「概ね正しくて早い数字」を優先します。締めを早くする具体的な方法は「月次決算の早期化」で解説しています。

STEP 2:差異を把握する

予算と実績の差異を、金額と率の両方で見ます。このとき、すべての科目を同じ深さで見る必要はありません。金額インパクトの大きい科目、変動の大きい科目に絞って深掘りし、残りは一覧で眺める程度で構いません。

STEP 3:要因を分解する

差異の金額だけを見ても、打ち手にはつながりません。たとえば売上の未達なら、「数量(件数)の問題」なのか「単価の問題」なのかを分解します。数量の未達なら営業活動やリードの問題、単価の下落なら値引きや商品構成の問題——要因によって打つべき手はまったく違います。この分解の地図になるのがKPIツリーです(「KPI設計の進め方」参照)。

売上の予実差異 数量(件数)の要因 営業活動・リード・失注の問題 単価の要因 値引き・商品構成の問題 どちらが原因かで、打ち手はまったく変わる

図3:差異は「金額」で終わらせず「要因」まで分解する

STEP 4:着地見込みを更新する

当月の差異が分かったら、それを年度の着地見込みに反映します。経営にとって重要なのは「先月どうだったか」より「このままいくと年度末にどうなるか」です。着地見込みを毎月更新する習慣がつくと、予実管理は過去の報告から未来の経営ツールに変わります。

STEP 5:打ち手を論点化する

最後に、差異と着地見込みから「経営として判断すべき論点」を抽出し、経営会議に載せます。「売上未達でした」で終わらせず、「このままだと着地は◯◯。対策として案AとBがあり、判断いただきたい」まで持っていくのが経営企画の仕事です。

✔ ポイント

5ステップのうち、初月から完璧にできる必要はありません。まずSTEP1〜2(実績確定と差異把握)を期日どおり回すことから始め、数ヶ月かけてSTEP3〜5を厚くしていく——という順番で十分です。型が同じであることが、精度より先に重要です。

よくある3つの失敗パターン

最後に、予実管理の立ち上げ期に私がよく見る失敗を3つ挙げておきます。

失敗①:予算が精緻すぎて、誰も更新できない

科目×部門×月で細かく組んだ予算は、一見立派ですが、前提が変わったときに誰も直せません。予算は「説明できる粒度」でとどめ、細部はKPIや現場の管理指標に任せるのが長続きのコツです。

失敗②:予実会議が「犯人探し」になる

未達の理由を問い詰める場になると、現場は数字を出すこと自体を嫌がるようになり、報告は遅く、保守的になります。差異は「誰が悪いか」ではなく「何が起きているか」を知るための材料です。会議の問いを「なぜ未達なのか」から「着地をどう変えるか」に変えるだけで、空気は大きく変わります。

失敗③:コメントが「引き続き頑張ります」で終わる

要因分析のない差異コメントは、翌月も同じ差異を生みます。コメントには「要因」「打ち手」「期限と担当」の3点を入れる——このフォーマットを決めてしまうのが有効です。

機能しない予実コメント 未達の「言い訳」を並べる 「引き続き頑張ります」で締める 翌月も同じ差異が続く 打ち手につながるコメント 要因(数量か単価か)を特定する 打ち手・期限・担当を明記する 着地見込みに反映される

図4:予実コメントのフォーマットを変えるだけで、会議が変わる

まとめ:型を決めて、まず3ヶ月回す

予実管理を機能させる要点を整理します。

  1. 目的は「採点」ではなく「着地見込みの精度向上と早い打ち手」
  2. 始める前に、粒度・スケジュール・役割の3つを決める
  3. 月次は5ステップの同じ型で回す(最初はSTEP1〜2だけでもよい)
  4. 精緻さよりも、期日どおり毎月回ることを優先する

予実管理は、初月から完成形を目指すものではなく、同じ型を3ヶ月回して初めて社内に定着し始めるものです。まず粗くても回る型を作る——これが、私が現場で一番大切にしている順番です。

当社では、予実管理を含む経営管理の現在地を約3分で確認できる経営管理体制チェックリスト(10項目)を無料公開しています。また、経営管理 無料診断(60分・オンライン)では、貴社の予実管理の粒度設計や月次の型づくりについて、CFO・経営企画のプロが具体的にアドバイスしています。予実管理の立ち上げにお悩みの際は、お気軽にご相談ください。


執筆:コムレイドコンサルティング合同会社 代表社員 千葉 学(CFO・FP&A支援)

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