|コムレイド経営企画部ブログ

年度予算の作り方——来期予算の立て方と計算の5ステップ

「来期の予算、いつから・何から作ればいいですか」——秋になると増えるご相談です。12月決算の会社ならまさに今が策定期、3月決算の会社でも、例年バタバタになるのを避けたいなら準備を始める時期です。

「はじめての予実管理」の記事では、できた予算を月次で回す方法を書きました。本記事ではその前段——年度予算(来期予算)そのものの立て方を、初めて本格的に取り組む会社向けに解説します。予算組みの前に決めること、予算案ができるまでの5ステップに加えて、売上・費用・利益をどう計算して数字を出すか(予算の出し方)も、計算例を使って説明します。

予算の目的は「当てる」ことではなく「決める」こと

最初に、よくある誤解をほどいておきます。「予算を作っても、どうせ当たらない」——そのとおりです。予算は未来の予測として当てるためのものではありません。

予算の本質は、来期どこを目指し、そのために資源(人・カネ・時間)をどう配分するかという経営の意思決定です。だから、期中に前提が変わって実績がずれても、予算が無意味になるわけではありません。ずれの大きさと理由が「何が想定と違ったのか」を教えてくれる——これが予実管理の出発点になります。当たらないから作らない、ではなく、ずれを測る基準として作る。この位置づけがすべての前提です。

予算組みを始める前に決める3つのこと

1. 粒度——実績と同じ単位で組む

「はじめての予実管理」の記事の繰り返しになりますが、最重要なので再掲します。予算は、実績データが毎月自動的に出てくる単位で組みます。事業部別の実績が取れないのに事業部別の予算を作っても、期中に比較できず形骸化します。部門別の実績の取り方は「管理会計の始め方」をご参照ください。

2. スケジュール——決算期から逆算する

年度が始まってから予算ができる「後追い予算」は、初月から予実管理を欠場することになります。期初までに承認を終える逆算スケジュールを組んでください。

10月 経営方針・目標の提示 11〜12月 部門・事業ごとの積み上げ 1月 全社調整・ギャップ検討 2月 経営会議・取締役会で承認 4月 新年度・予実開始

図1:策定スケジュールの例(3月決算の場合。自社の決算期に合わせて逆算を)

3. 方向——トップダウンとボトムアップを併用する

経営の目標だけを下ろすと現場の納得がない数字になり、現場の積み上げだけだと保守的な数字になります。実務では両方を出し、その間のギャップを埋める形が基本です。

経営の目標(トップダウン) 来期どこを目指すか 現場の積み上げ(ボトムアップ) 既存の延長で現実的に見える数字 ギャップを「施策」で埋める 何をやるから届くのか、を言語化する(気合の上乗せ禁止)

図2:予算づくりの実体は、目標と積み上げのギャップを埋める議論

予算の立て方——予算案ができるまでの5ステップ

STEP 1:経営方針と目標を1枚で示す

最初に経営者が「来期どこを目指すか」を示します。売上・利益の目標水準と、力を入れる領域・やめることを1枚で十分です。これがないまま現場に「予算を出して」と言うと、前年並みの数字が集まってくるだけです。

STEP 2:売上予算を積み上げる

売上は「前年×成長率」ではなく、構造で積み上げます。受注型なら「商談数×受注率×平均単価」、継続課金型なら「既存の継続+新規獲得」——「KPI設計の進め方」で書いたKPIツリーの分解が、そのまま売上予算の計算式になります。分解して作った予算は、期中にずれたとき「どの要素がずれたか」まで特定できます。

なお、売上を構造で分解できるだけの実績データがそろっているかを含め、予算づくりの土台になる経営管理の現在地は、経営管理体制チェックリスト(約3分・無料)で確認できます。

STEP 3:費用予算を積み上げる

費用は3種類に分けると整理しやすくなります。①売上に連動する変動費(過去の比率をベースに)、②固定費(現状+既知の増減)、③施策に伴う新規費用(STEP 1・2の施策から)。人件費は昇給・採用計画から積み上げます。③の新しい取り組みの費用は、各部門に要求として出してもらい、経営企画が取りまとめて調整するのが一般的です。部門からの要求の出し方と受け方は「予算取りとは——通る予算要求の作り方と進め方」で詳しく書いています。最低賃金の引き上げなど既に見えているコスト増は、この段階で織り込んでください(「最低賃金1,177円へ——中小企業の損益と資金繰りへの影響」参照)。

STEP 4:利益を確認し、ギャップを施策で埋める

売上と費用を引き算した利益が目標に届かないとき、ここからが予算づくりの本番です。禁じ手は、根拠なく売上を上乗せして帳尻を合わせること。埋めるなら「何をやるから届くのか」を施策として言語化し、その施策の費用も予算に入れます(図2)。どうしても埋まらなければ、目標側を修正する判断も経営の仕事です。ギャップの大きさを数字で出す計算の手順は、次の節で例を使って説明します。

STEP 5:月次に展開して承認する

年間の数字を12ヶ月に割ります。単純な12等分ではなく、季節性・イベント(賞与月、納税月、繁忙期)を反映してください。月次展開まで済んだ予算は、そのまま「はじめての予実管理」で書いた月次サイクルの比較軸になります。承認は経営会議・取締役会で行い、「この数字で行く」という合意を残します。

予算の出し方——売上・費用・利益の計算手順

5ステップの流れはわかっても、「実際にどう計算して数字を出すのか」で手が止まる方は少なくありません。予算の数字は、次の5つの計算で出せます。

① 売上予算 = 区分ごとの「数量 × 単価」の合計 ② 変動費 = ① × 変動費率(過去の実績から) ③ 限界利益 = ① − ② ④ 固定費 = 今期の見込み + 来期に分かっている増減 ⑤ 営業利益 = ③ − ④ ⑤が目標利益に届かないとき 必要な売上 =(④ 固定費 + 目標利益)÷ 限界利益率 → ①で積み上げた売上との差を、施策で埋める(図2)

図3:予算の出し方——積み上げで利益を出し、届かなければ必要な売上を逆算する

売上予算は「数量×単価」で区分ごとに出す

売上は、顧客・商品・事業など、実績が取れる区分ごとに「数量×単価」で出します。数量は、受注型なら「商談数×受注率」、継続課金型なら「既存の継続数+新規の獲得数」です。区分ごとに出してから合計するのは、期中にずれたとき「どの区分の、数量と単価のどちらがずれたか」を確かめられるようにするためです。

変動費は「売上×変動費率」、固定費は「今期の見込み+増減」

費用は、売上に連動して増減する変動費(仕入・外注費など)と、売上にかかわらずかかる固定費(人件費・家賃など)に分けます。分け方は厳密でなくて構いません。勘定科目ごとに「どちらか」を決めておけば十分です。

変動費は、過去の実績から出した変動費率(変動費÷売上)を売上予算に掛けて出します。固定費は、今期の実績見込みをもとに、昇給・採用・家賃の改定など来期に分かっている増減を足し引きします。売上から変動費を引いたものが限界利益で、固定費をまかなう元手になります。

目標に届かないときは、必要な売上を逆算する

積み上げた利益が目標に届かないときは、目標から逆に「必要な売上」を計算します。式は「(固定費+目標利益)÷限界利益率」です。限界利益率は「限界利益÷売上」で、売上1円あたりに残る利益の割合を表します。

説明用の仮の数字で、計算を通してみます。

  • ① 売上予算(積み上げ):2億円
  • ② 変動費:2億円×変動費率60%=1億2,000万円
  • ③ 限界利益:2億円−1億2,000万円=8,000万円(限界利益率40%)
  • ④ 固定費:今期の見込み7,000万円+昇給・採用の増加600万円=7,600万円
  • ⑤ 営業利益:8,000万円−7,600万円=400万円

目標の営業利益が1,000万円なら、必要な売上は(7,600万円+1,000万円)÷40%=2億1,500万円です。積み上げの2億円との差の1,500万円が、STEP 4で施策によって埋めるギャップになります。

ここで注意したいのは、施策にも費用がかかることです。たとえば新規獲得のために広告費を増やせば、固定費が増え、必要な売上もまた上がります。施策を足したら、もう一度①〜⑤を計算し直します。この往復を2〜3回くり返して、「この施策とこの費用で、この利益」という筋の通った予算案にしていきます。表計算ソフトで①〜⑤を1枚にまとめておくと、前提を変えたときの計算し直しが楽になります。

よくある3つの失敗

失敗①:前年比◯%の機械的な予算。作るのは楽ですが、意思がありません。何を変えるから数字が変わるのか——施策と紐づかない予算は、資源配分の道具になりません。

失敗②:希望的観測の上乗せ。達成可能性のない予算は、初月から大きな未達が続き、数ヶ月で誰も見なくなります。予算が死ぬと予実管理も死にます。背伸びは「施策の裏付けがある範囲」までです。

失敗③:細かすぎて維持できない。科目×部門×月で精緻に作り込んだ予算は、前提が変わったときに直せません。「管理会計の始め方」で書いた、配賦の精緻化で止まる問題と同じ構造です。説明できる粒度で止めることが、長持ちの条件です。

✔ ポイント

初めての予算は、粗くて構いません。全社×主要科目レベルの1枚でも、「意思を数字にして、毎月ずれを測る」サイクルが回り始めることに価値があります。逆に、どれほど立派な予算でも、月次の予実とセットでなければ「作って終わり」になります。予算づくりと同時に、はじめての予実管理で書いた月次の型の準備も進めてください。

まとめ

  1. 予算は「当てる」ものではなく、資源配分を「決める」もの。ずれを測る基準として作る
  2. 始める前に、粒度(実績と同じ単位)・スケジュール(決算期から逆算)・方向(トップダウン×ボトムアップ併用)を決める
  3. 5ステップ——方針1枚→売上を構造で積み上げ→費用3分類→ギャップは施策で埋める→月次展開して承認
  4. 予算の出し方は、売上(数量×単価)−変動費−固定費で利益を出し、目標に届かなければ「(固定費+目標利益)÷限界利益率」で必要な売上を逆算する
  5. 前年比◯%・希望的観測・過剰な精緻化の3つを避け、粗くても意思のある予算を

予算を含む経営管理の現在地は、経営管理体制チェックリスト(約3分・無料)で確認いただけます。また、当社のコムレイド経営企画部では、予算フォーマットの設計から売上・費用の積み上げの伴走、承認後の予実管理の立ち上げまでを、CFO・経営企画のプロがご支援しています。経営管理 無料診断(60分・オンライン)では、貴社の決算期に合わせた策定スケジュールのご提案もできますので、「来期こそ予算をちゃんと作りたい」という方はお気軽にご相談ください。


2026年10月30日更新:「予算の出し方——売上・費用・利益の計算手順」の節(図3と計算例)と、予算取りの記事への案内を追記しました。

執筆:コムレイドコンサルティング合同会社 代表社員 千葉 学(CFO・FP&A支援)

経営管理 無料診断(60分・オンライン)実施中
CFO・経営企画のプロが課題を言語化し、改善ロードマップの骨子をご提示します。
営業電話・売り込みは一切ありません。
無料診断を申し込む →
← ブログ一覧へ戻る