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物価高倒産が436件——価格交渉を数字で進める3つの準備

本記事は2026年10月13日時点の公開情報に基づいています。データの詳細は東京商工リサーチの公表記事をご確認ください。取引が法律の対象になるかなど、法的な判断については専門家にご相談ください。

ニュース解説の第12弾は、物価高による倒産です。仕入れや人件費は上がるのに、販売価格は上げられない——このすき間に挟まれて倒れる会社が増えています。今回は、その対策として一番効く「価格交渉」を、どう数字で進めるかを考えます。

ニュースの概要

東京商工リサーチは2026年10月8日、2026年度上半期(4〜9月)の「物価高」倒産の集計を公表しました(出典:東京商工リサーチ TSRデータインサイト)。

  • 2026年度上半期の「物価高」倒産は436件(前年同期比17.8%増)。2022年度からの円安局面で最多
  • 産業別では、飲食店などの「サービス業他」が111件で、唯一100件台
  • 資本金1千万円未満の小・零細企業が279件(構成比63.9%)と6割を超える

同社は、物価上昇のスピードに価格転嫁が追いつかず、特に値上げや価格交渉の力が弱い小・零細企業の脱落が倒産を押し上げていると分析しています。物価高による倒産は、今後も高い水準で続く見込みとしています。

2026年度上半期の件数 436件 前年同期比 17.8%増 サービス業他(飲食店など) 111件 産業別で唯一の100件台 資本金1千万円未満 63.9% 436件のうち279件

図1:2026年度上半期の「物価高」倒産の概要(出典:東京商工リサーチ 2026年10月8日公表)

価格転嫁は、どこまで進んでいるのか

経済産業省が2026年6月に公表した調査(2026年3月時点)では、中小企業の価格転嫁の状況は次のとおりでした(出典:経済産業省 価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査)。

  • 発注企業との間で「価格交渉が行われた」割合は90.7%
  • 一方、コスト上昇分のうち価格に転嫁できた割合(価格転嫁率)は54.2%
  • コストの種類別では、原材料費55.7%、労務費50.0%、エネルギーコスト48.9%
価格交渉はできても、転嫁は半分程度(2026年3月時点) 価格交渉が行われた 90.7% 価格転嫁率(全体) 54.2% うち原材料費 55.7% うち労務費 50.0% うちエネルギーコスト 48.9%

図2:中小企業の価格交渉と価格転嫁の状況(出典:経済産業省 2026年6月26日公表)

9割の会社が価格交渉の場を持てている一方で、コストの上昇分はおよそ半分しか価格に反映できていません。交渉の機会があることと、交渉で結果を出せることの間には、大きな差があります。同じ調査では、全額の転嫁に至らなかった企業のうち、発注企業から「納得できる説明があった」と答えたのは約6割にとどまっています。

制度面では、下請法を改正した取適法が2026年1月に施行され、対象となる取引では、受注側からの価格の協議の求めに応じずに一方的に代金を決めることが禁止されました(「約束手形の廃止まで半年——資金繰りで見直す3つのこと」参照)。交渉のテーブルにつく環境は整いつつあります。あとは、そのテーブルで何を示すかです。

実務家の視点——価格交渉を数字で進める3つの準備

価格交渉の場で効くのは、「苦しいので上げてほしい」というお願いではなく、「これだけコストが上がったので、この価格が必要です」という根拠です。その根拠は、自社の数字からしか作れません。

第一に、商品・取引先ごとの採算を把握することです。会社全体では黒字でも、特定の商品や取引先では赤字になっていることがよくあります。どの取引から優先して価格を見直すべきかは、商品別・取引先別の損益を見て初めて分かります。考え方は「管理会計の始め方」で解説しています。

第二に、コストの上昇を「内訳」で示せるようにすることです。原材料費、人件費、エネルギー費、運送費——何が、いつから、どれだけ上がったかを、根拠となる資料とともに整理します。特に労務費は転嫁率が最も低い分野ですが、最低賃金の改定のように公的な数字で示せる上昇もあります(「最低賃金1,177円へ——中小企業の損益と資金繰りへの影響」参照)。

第三に、交渉の時期を逃さないことです。経済産業省によると、価格の改定は4月と10月に行う企業が比較的多いとされています。改定の時期から逆算して、2〜3か月前には根拠資料をそろえて交渉を申し入れるのが現実的です。取引先の予算策定の時期に合わせて相談しておくことも、受け入れられやすさを左右します。

なお、商品別の採算を含む経営管理の現在地は、経営管理体制チェックリスト(約3分・無料)で確認できます。

✔ ポイント

価格交渉は、営業の話であると同時に、経営管理の話です。どの取引でいくら損をしているのか、コストがどれだけ上がったのかを数字で示せない会社は、交渉の場に立っても押し返されてしまいます。逆に、根拠のある数字があれば、取引先も社内で値上げを説明しやすくなります。取引先にとっても「納得できる説明」になるからです。物価高が続く今、商品別の採算とコストの内訳を把握しておくことは、利益を守るための最低限の備えです。足元の価格の動きは、日銀短観9月調査の記事でも中小企業の仕入価格と販売価格の差として紹介しています。

まとめ

  1. 2026年度上半期の「物価高」倒産は436件(前年同期比17.8%増)で、円安局面で最多。小・零細企業が6割超を占める
  2. 価格交渉の場は9割の会社が持てているが、価格転嫁率は54.2%にとどまる。交渉の機会と、交渉で結果を出すことの間には差がある
  3. 取適法により、一方的な代金の決定は禁止された。交渉の環境は整いつつある
  4. 交渉を数字で進める準備は、商品・取引先ごとの採算の把握、コスト上昇の内訳の整理、改定時期から逆算した申し入れの3つ

当社のコムレイド経営企画部では、商品別・取引先別の採算の見える化や、価格交渉に使える根拠資料の整理、値上げを織り込んだ計画づくりまでを、CFO・経営企画のプロが伴走してご支援しています。「どの取引から価格を見直すべきか、数字で整理したい」という段階のご相談は、経営管理 無料診断(60分・オンライン)でお気軽にどうぞ。


出典(2026年10月13日閲覧)

執筆:コムレイドコンサルティング合同会社 代表社員 千葉 学(CFO・FP&A支援)

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