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中小M&A資格試験が創設へ——M&Aを検討する経営者の視点

本記事は2026年9月29日時点の公開情報に基づいています。試験の概要は中小企業庁の検討会資料にもとづく「想定」を含み、今後変更される可能性があります。最新情報は中小企業庁の公表資料をご確認ください。

ニュース解説の第5弾は、M&Aの世界で進んでいる制度づくりです。これまで資格が不要だったM&Aの仲介・FA(フィナンシャル・アドバイザー)業務について、国が資格試験を創設します。M&Aの支援者向けの話に見えますが、事業承継やM&Aを検討する経営者にとっても、「誰に相談するか」を考える上で知っておきたい動きです。

ニュースの概要

中小企業庁は、中小企業のM&Aを支援する人材の知識と倫理観を底上げするため、「中小M&A資格試験」を創設します。制度の方向性は2026年3月17日の「中小M&A市場の改革に向けた検討会」で示され(出典:中小企業庁 検討会資料2)、試験を運営する事業者として、2026年5月1日に株式会社銀行研修社が採択されました(出典:中小企業庁 採択結果)。

  • 対象:M&Aの仲介者・FAや、金融機関・士業などで仲介・FA業務に関わる人、これから携わろうとする人
  • 形式(想定):CBT方式で60問程度・120分。立ち上げ期は年3回程度の一斉実施
  • 合格基準(想定):総得点の70〜80%程度。特定科目への偏りを防ぐため、科目別の最低基準(50%程度)を設ける方向も検討
  • 位置づけ:試験の合格は、弁護士・税理士などの独占業務を行えるようにするものではない

なお、本記事の執筆時点で、第1回の試験日・受験料・申込方法は公表されていません。

試験科目と出題割合(想定) 60問程度・120分・CBT M&A実務 35〜40%程度 倫理・行動規範 25%程度 財務・税務 20〜23%程度 法務 17〜18%程度 倫理・行動規範の問題には、選ぶと大きく減点される「禁忌肢」の設定も検討されている

図1:試験の4科目と出題割合の想定(出典:中小企業庁 検討会資料2、2026年3月17日)

注目したいのは、「倫理・行動規範」に全体の4分の1程度が割り当てられていることです。検討会資料では、ガイドラインに明らかに違反するような行為を選ぶと大きく減点される「禁忌肢」の設定も検討されています。サンプル問題として示されたのは、譲り受け側(買い手)の社長に問題のある交友関係があると知りながら、成約を優先して譲り渡し側(売り手)に説明しない——という選択肢でした。試験が何を重視しているかが、よく分かります。

なぜ今、資格試験なのか

背景には、中小M&A市場の拡大とともに増えてきたトラブルがあります。検討会資料や公募要領では、次のような問題が挙げられています。

  • 不慣れな中小企業者に十分な説明がされないまま、取引が進んだ事案
  • 当事者との関係で利益相反が生じた状態で取引が進んだ事案
  • 経営者保証が解除されないなど、不適切な譲り受け側が排除されていない問題

国はこれまでも、M&Aの進め方の指針である「中小M&Aガイドライン」の改訂(2024年8月に第3版)や、ガイドラインの遵守を宣言した支援機関を登録する「M&A支援機関登録制度」(2026年3月時点で約3,400者が登録)で、規律づくりを進めてきました。今回の資格試験は、その対象を「会社」から「担当者個人」に広げる動きと言えます。

2026年3月 試験の概要を公表 2026年5月 運営事業者を決定 令和8〜9年度 試験の実施(国の委託事業) 令和10年度以降 合格者登録制度の運用開始

図2:想定スケジュール(出典:中小企業庁 検討会資料2・採択結果)

合格者には、倫理規程の遵守や定期的な講習の受講を条件とする登録制度も検討されています。登録者はデータベースで氏名が公表され、倫理規程に違反すれば登録取消しなどもありうる設計です。また、M&A支援機関登録制度の登録機関に対し、担当者への資格取得の推奨や、依頼者への重要事項説明を資格保有者が行うことを求めることも検討されています。

実務家の視点——M&Aを検討する経営者が押さえたい3つのこと

第一に、資格は「目安の一つ」であって、「お墨付き」ではないことです。試験が確認するのは、基礎的な知識と倫理観です。合格者が増えれば支援者選びの手がかりは増えますが、M&Aの成否を左右する経験や相性まで保証するものではありません。制度が立ち上がったばかりの当面は、資格の有無よりも、次のような点を直接確認するほうが確実です。

  • M&A支援機関登録制度に登録しているか(事業承継・M&A補助金の専門家活用枠で補助対象となる仲介・FAの手数料は、登録機関のものに限られます。補助金については「事業承継・M&A補助金 十六次公募——押さえるべきポイント」で解説しました)
  • 契約前に、業務内容や手数料、契約条件(専任条項・テール条項など)について、書面で重要事項の説明があるか
  • 仲介(双方から依頼を受ける)か、FA(片方の代理)か。仲介の場合、利益相反をどう管理しているか

第二に、相手先の見極めを支援者任せにしないことです。検討会資料が問題視している「不適切な譲り受け側」の問題は、売り手の経営者にとって最も深刻なリスクです。経営者保証の扱いを含め、クロージング後に何が起こりうるかを契約前に説明してもらい、納得できるまで確認してください。「成約を急ぐ支援者」より「リスクを説明する支援者」を選ぶ——これが、資格試験の倫理科目が示しているメッセージでもあります。

第三に、自社の数字を整えておくことです。M&Aでは、最後は自社の数字が問われます。買い手のデューデリジェンス(DD)では、月次の損益や事業別の収益、資金繰りの状況が細かく確認されます。数字が整っていない会社は、評価が下がるか、確認に時間がかかって交渉力を失いがちです。「月次決算の早期化」や「管理会計の始め方」で書いた経営管理の整備は、そのままM&Aの準備にもなります。

なお、自社の経営管理の現在地は、経営管理体制チェックリスト(約3分・無料)で確認できます。

✔ ポイント

M&Aは、多くの経営者にとって一生に一度の意思決定です。支援者の質を底上げする制度づくりは歓迎すべき動きですが、制度が整うのを待つ必要はありません。「誰に頼むか」は登録状況・重要事項説明・利益相反への対応で確かめられますし、「何を渡すか」は自社の数字の整備で今日から準備できます。資格の有無より、この2つを経営者自身が押さえておくことが、M&Aで後悔しないための一番の備えです。承継やM&Aをまだ具体的に考えていない段階でも、数字が整っていれば選択肢は広がります。年度予算の作り方など、日々の経営管理の記事もあわせてご参照ください。

まとめ

  1. 中小企業庁が、M&A仲介・FA向けの「中小M&A資格試験」を創設。運営事業者は2026年5月に決定し、試験は令和8〜9年度に実施予定。第1回の日程は未公表
  2. 試験は4科目・60問程度。「倫理・行動規範」に4分の1程度を割き、禁忌肢の設定も検討。背景には説明不足・利益相反・不適切な買い手のトラブル
  3. 経営者にとって資格は支援者選びの目安の一つ。当面は、登録制度への登録・書面での重要事項説明・利益相反への対応を直接確認する
  4. M&Aで最後に問われるのは自社の数字。経営管理の整備が、そのままM&Aの準備になる

当社コムレイドコンサルティングは、コムレイド経営企画部での経営管理支援に加え、M&A支援(戦略策定からPMIまで)も行っています。「将来の承継やM&Aに備えて、まず自社の数字を整えたい」という段階のご相談は、経営管理 無料診断(60分・オンライン)でお気軽にどうぞ。


出典(2026年9月29日閲覧)

執筆:コムレイドコンサルティング合同会社 代表社員 千葉 学(CFO・FP&A支援)

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