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社会保険の適用拡大——人件費計画に織り込む3つの確認

本記事は2026年10月20日時点の公開情報に基づいています。制度の詳細は厚生労働省 社会保険適用拡大特設サイトをご確認ください。本記事は人件費計画の観点からの一般的な情報提供です。加入手続きや個別の判断については、社会保険労務士や年金事務所にご相談ください。

ニュース解説の第17弾は、パート・アルバイトへの社会保険の適用拡大です。「最低賃金の改定後調査——人件費を複数年で計画する3つの視点」の記事で、賃金が上がれば社会保険料の会社負担も増えると書きました。今回の制度改正は、それとは別のルートで、会社が負担する保険料を増やす可能性があります。手続きではなく、人件費の計画という側面から考えます。

ニュースの概要

厚生労働省によると、令和7年の年金制度改正により、パート・アルバイトの社会保険(健康保険・厚生年金保険)加入の要件のうち、賃金要件(所定内賃金が月額8.8万円以上)は2026年10月に撤廃されました。加入の対象となるのは、週の所定労働時間が20時間以上、2か月を超えて雇用される見込みがある、学生ではない、といった要件を満たす従業員です(出典:厚生労働省 社会保険適用拡大特設サイト)。

東京商工リサーチは2026年10月19日、この改正に関する企業アンケート(有効回答625社)の結果を公表しました(出典:東京商工リサーチ TSRデータインサイト)。

  • 改正後も、勤務時間の調整などで社会保険の対象外にとどまりそうな従業員が「いる」企業は44.9%。中小企業では46.3%と、大企業の32.2%を上回った
  • 改正までの対応は「何もしていない」が50.0%で最も多く、「個別面談の実施」は31.4%、「対象者の一部または全部と雇用契約を結びなおした」は12.2%だった
賃金要件(月額8.8万円以上) 撤廃 2026年10月から 勤務時間の調整で対象外に 44.9% そうした従業員がいる企業 改正までの対応 50.0% 「何もしていない」企業

図1:社会保険の適用拡大の概要(出典:厚生労働省 社会保険適用拡大特設サイト、東京商工リサーチ 2026年10月19日公表)

対象となる企業は、段階的に広がる

もう一つ押さえておきたいのが、企業の規模による適用の範囲です。パート・アルバイトが社会保険の加入対象となるのは、原則として従業員数の基準を常時上回る企業等で、その基準が段階的に引き下げられていきます。2027年9月までは従業員数51人以上の企業が対象で、2027年10月から36〜50人の企業、その後も段階的に広がり、2035年10月には10人以下の企業も対象となります。

2027年9月まで 2027年10月〜 2029年10月〜 2032年10月〜 2035年10月〜 51人以上 対象となる企業 36〜50人 新たに対象 21〜35人 新たに対象 11〜20人 新たに対象 10人以下 新たに対象 従業員数=フルタイムの従業員数+週の所定労働時間がフルタイムの3/4以上の従業員数 (法人の場合は法人全体。現在の厚生年金保険の加入対象者の数)

図2:パート・アルバイトが加入対象となる企業の範囲の拡大スケジュール(出典:厚生労働省 社会保険適用拡大特設サイト)

ここでいう従業員数は、パート・アルバイトを含めた全員の数ではなく、フルタイムの従業員と、週の所定労働時間がフルタイムの4分の3以上の従業員の数(厚生年金保険の加入対象者の数)です。法人の場合は法人全体で数えます。自社がいつ対象になるのかは、この数え方で確認する必要があります。

社会保険料は、従業員と会社が負担します。加入する人が増えれば、会社が負担する保険料もその分増えます。一方で、東京商工リサーチの調査では、手取りの減少を避けるために勤務時間を抑える「働き控え」も見込まれています。保険料の負担が増える会社もあれば、働く時間が減って人手が足りなくなる会社もある——どちらの影響が出るかは、従業員一人ひとりの選択によって変わります。

実務家の視点——人件費計画に織り込む3つの確認

第一に、自社がいつ対象になるかを確認し、計画の時間軸に入れることです。従業員数51人以上の企業はすでに対象で、今回の賃金要件の撤廃により、これまで月額8.8万円未満だった従業員も加入の対象になり得ます。50人以下の企業は、2027年10月以降、規模に応じて順に対象となります。自社の従業員数がどの段階にあたるのかを確かめ、対象となる時期を中期の計画に書き込んでおくことが出発点です。

第二に、会社が負担する保険料を試算し、人件費の計画に入れることです。対象となる従業員の人数と賃金がわかれば、会社負担の保険料の増加額を見積もれます。厚生労働省の特設サイトには、事業主負担分を試算するツールも用意されています。最低賃金の引き上げと同じく、毎年の予算で一度きり見積もるのではなく、複数年の人件費計画として持っておくことが大切です。考え方は「最低賃金の改定後調査」の記事と「年度予算の作り方」で解説しています。

第三に、働き方の意向を早めに把握し、人員の計画に反映することです。社会保険に加入して働き続けたい人もいれば、勤務時間を抑えたい人もいます。勤務時間を抑える人が多ければ、保険料の負担は増えない代わりに、シフトが回らず追加の採用が必要になるかもしれません。調査では、改正までに個別面談を実施した企業は約3割でした。対象となる時期より前に従業員の意向を聞き、保険料の負担と人手の確保の両面から、人員の計画を見直しておく必要があります。人手不足が経営に与える影響は「人手不足倒産が過去最多ペース——経営管理の3つの備え」でも取り上げました。

なお、厚生労働省は、従業員の保険料負担を軽減する制度や、社会保険労務士などの専門家を無料で派遣する事業、助成金などの支援制度を特設サイトで案内しています(出典:厚生労働省 支援制度について)。手続きや制度の利用については、顧問の社会保険労務士や年金事務所にご確認ください。

人件費の計画を含む経営管理の現在地は、経営管理体制チェックリスト(約3分・無料)で確認できます。

✔ ポイント

社会保険の適用拡大は、人事・労務の話として扱われがちですが、会社の数字にも直接響きます。保険料の負担が増えるのか、働く時間が減って人手が足りなくなるのか。どちらに振れるかで、取るべき手は変わります。対象となる時期は前もって分かっているので、慌てる必要はありません。時期を確かめ、負担を試算し、従業員の意向を聞いておけば、計画の中で落ち着いて対応できます。人件費の上昇が資金繰りに与える影響は、資金繰り表の作り方の記事も参考にしてください。

まとめ

  1. パート・アルバイトの社会保険加入の賃金要件(月額8.8万円以上)は、2026年10月に撤廃された
  2. 加入対象となる企業の範囲は、2027年9月までの51人以上から、2027年10月以降に段階的に広がり、2035年10月には10人以下の企業も対象となる
  3. 東京商工リサーチの調査では、勤務時間の調整で対象外にとどまりそうな従業員がいる企業が44.9%、改正までに何もしていない企業が50.0%
  4. 備えは、対象となる時期を確認する、会社負担の保険料を試算して人件費の計画に入れる、従業員の意向を把握して人員の計画に反映する——の3つ

当社のコムレイド経営企画部では、社会保険料を含めた人件費の複数年の試算や、予算への織り込みを、CFO・経営企画のプロが伴走してご支援しています。加入手続きなどの労務の実務は当社の業務範囲外ですが、その影響を数字で見える化し、計画に反映することができます。「制度の変化を、先回りして計画に入れておきたい」という段階のご相談は、経営管理 無料診断(60分・オンライン)でお気軽にどうぞ。


出典(2026年10月20日閲覧)

執筆:コムレイドコンサルティング合同会社 代表社員 千葉 学(CFO・FP&A支援)

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