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最低賃金の改定後調査——人件費を複数年で計画する3つの視点

本記事は2026年10月19日時点の公開情報に基づいています。データの詳細は帝国データバンク・東京商工リサーチの公表記事をご確認ください。

ニュース解説の第16弾は、最低賃金の続報です。2026年度の最低賃金(全国加重平均1,177円)の内容と、今年度の損益・資金繰りへの影響の試算は、「最低賃金1,177円へ——中小企業の損益と資金繰りへの影響」で解説しました。今回は、改定を受けた企業の実態調査が相次いで公表されたことを受けて、来年度以降も続く引き上げにどう備えるかを考えます。

ニュースの概要

帝国データバンクは2026年10月16日、全国の企業1万235社が回答した「最低賃金に関する企業の実態調査」を公表しました(出典:帝国データバンク)。

  • 企業が従業員を採用するときの最も低い時給は平均1,255円で、前年から50円上昇した
  • 最低賃金の全国加重平均との差は78円で、2024年の112円、2025年の84円から2年連続で縮小した
  • 事業を続けながら支払えると考える時給の上限は平均1,275円で、採用時の最低時給を20円上回る水準にとどまった
  • 近年の引き上げのペースを「速すぎる」と答えた企業は42.3%で最も多かった

東京商工リサーチも2026年10月15日、5,354社が回答したアンケートの結果を公表しています(出典:東京商工リサーチ TSRデータインサイト)。

  • 今回の最低賃金の引き上げを受けて、給与を改定すると答えた企業は51.3%
  • 来年度に許容できる最低賃金の引き上げ額は、中央値で50円。「許容できない」も19.2%あった
  • 最低賃金の上昇への対策は、「価格への転嫁」が43.9%で最も多く、「設備投資による生産性の向上」は19.8%。「できる対策はない」も10.3%あった
採用時の最低時給(平均) 1,255円 前年から50円上昇 払える時給の上限(平均) 1,275円 採用時の最低時給との差は20円 今回の改定で給与を改定 51.3% 回答企業のおよそ半数

図1:最低賃金の改定後の企業調査の主な数字(出典:帝国データバンク 2026年10月16日、東京商工リサーチ 2026年10月15日公表)

縮まる「差」が意味すること

帝国データバンクの調査で注目したいのは、採用時の時給と最低賃金の差が縮み続けていることです。企業は人材を確保するために最低賃金より高い時給を設定していますが、毎年の引き上げに追いつかれつつあります。最低賃金は2024年に51円、2025年に66円、2026年に56円と、毎年50円を超える引き上げが続いています。

採用時の最低時給 − 最低賃金(全国加重平均) 112円 2024年 84円 2025年 78円 2026年

図2:採用時の最低時給と最低賃金の差の推移(出典:帝国データバンク 2026年10月16日公表)

同社は調査のまとめで、最低賃金の引き上げは対象者の時給を改定すれば対応が終わるものではないと指摘しています。新しく入った人と既存の従業員との賃金の差が縮まると、経験や役割に見合った処遇が得られていないという不満が生まれかねません。そのため、既存の従業員の賃金も含め、賃金の体系全体を見直す対応が求められるとしています。そして、販売単価や受注額の引き上げが人件費の増加に追いつかなければ、継続的な賃上げは難しいとも述べています。

つまり、最低賃金の改定は「今年、対象者の時給をいくら上げるか」という単年度の話にとどまりません。毎年の引き上げが、対象者の外側の賃金にも波及しながら、人件費全体を押し上げていく——その前提で計画を立てる必要があります。

実務家の視点——人件費を複数年で計画する3つの視点

第一に、来年度以降も引き上げが続く前提で、人件費を複数年で試算することです。最低賃金の引き上げ額は毎年決まるもので、来年度の額は分かりません。だからこそ、「今年と同程度の引き上げが続いた場合」など、いくつかの前提を置いて、2〜3年先までの人件費を試算しておきます。対象となる従業員の時給、勤務時間、人数を掛け合わせれば、引き上げ額ごとの影響を数字で比べられます。来期の予算づくりの進め方は「年度予算の作り方」で解説しています。

第二に、対象者だけでなく、上の層への波及まで見込むことです。最低賃金を下回る人の時給を上げるだけでは、帝国データバンクが指摘するように、既存の従業員との差が縮まります。役割や経験に応じた差を保とうとすれば、その上の層の賃金も見直すことになります。また、賃金が上がれば、それに連動する社会保険料の会社負担なども増えます。試算は、対象者の差額だけでなく、こうした波及分を含めた人件費の総額で行うことが大切です。

第三に、自社が払える水準を、粗利から逆算して把握することです。調査では、企業が払えると考える時給の上限が、採用時の時給のすぐ近くにありました。自社にどれだけの余力があるかは、売上から仕入れなどの変動費を引いた粗利のうち、人件費がどれだけを占めているか(労働分配率)を見ると分かります。人件費の増加に対して粗利がどれだけ伸びれば同じ水準を保てるのか——それが、価格の見直しや生産性の向上で目指すべき目標になります。粗利と固定費の考え方は「管理会計の始め方」で、価格交渉の進め方は「物価高倒産が436件——価格交渉を数字で進める3つの準備」で解説しました。

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✔ ポイント

最低賃金の改定は毎年やってきますが、多くの会社では、発表されてから慌てて対応しているのが実情ではないでしょうか。今年度は、全都道府県の改定額の答申が出そろったのが9月3日で、発効は10月1日から順次でした。決まってから価格の見直しを始めても、取引先との交渉が間に合わないことがあります。来年度以降も引き上げが続く前提で、人件費の総額と、それをまかなう粗利の目標を先に持っておくこと。それが、毎年の改定に振り回されないための備えです。足元の数字の見直しは、下期の着地見込みを見直す4ステップの記事もご参照ください。

まとめ

  1. 帝国データバンクの調査では、採用時の最低時給は平均1,255円。最低賃金との差は78円で、2年連続で縮小した
  2. 企業が事業を続けながら払えると考える時給の上限は平均1,275円で、採用時の時給とほとんど差がない
  3. 東京商工リサーチの調査では、今回の改定で給与を改定する企業が51.3%。対策は価格への転嫁が最も多い
  4. 備えは、来年度以降も続く前提で人件費を複数年で試算する、上の層への波及まで見込む、払える水準を粗利から逆算する——の3つ

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出典(2026年10月19日閲覧)

執筆:コムレイドコンサルティング合同会社 代表社員 千葉 学(CFO・FP&A支援)

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